ありのままで
ミーン、ミン、ミン
蝉の声で目を覚ました。もう暑い夏が梅雨を終えもうすぐそこまでやって来ている
出張先の部屋から出て洗面所で顔を洗い戻ってタバコを吸う。頭はまだぼんやりと夢見心地だ。窓の外は青空が広がっている。田舎という事もあり青がいつもより大きくそして美しい
今日は休日、数日前から自己企画していたつい先日起こった熊本県豪雨災害被災地への弔問へと出掛けるんだ
弔問と言っても知り合いなんて誰一人といない。ただ勝手に現地に赴きこの目で見、手を合わせたいと思っただけだ
数年前に起きた熊本県大震災。あの時も偶然出張先が被災地から割と近くこの目で見ておかねばと思い手を合わせに行った事をハッキリとおぼえている
タバコを吸い終え昨日買っておいた朝食を食べ準備を始める。道中行きたい神社が山中深くにあり、その近くで旨い空気を吸いながらコーヒーブレイクでもと思いそれらも一緒にパッキングする
出発だ
相棒のエンジンをかける。この旅の相棒はいすゞエルフダブルキャブだ。道中山を駆け上がる。トルクが必要だ、悪くない
渓谷を横目に落石を避けながらの山道を走る事小一時間
目的地の登尾神社入り口に到着。相棒を停めバックパックを背負い約900M先の本殿を目指すも
まさかの参道が遮断済み。大雨の傷痕が至る所に立ちはだかる。来るものを完全に拒んでいる
転んで怪我をし仕事に支障をきたす訳にはいかない。ここは素直に引き下がることとした
(後で気付いたのだが宿泊先からマグカップを忘れてしまっていたので湯を沸かした所で飲めなかったのは自分だけの秘密として深く胸の奥底にしまった)
さあ、向かうは人吉市だ。ここからおよそ60km程だ。信号の全くない山道を走り峠をいくつか越えた。その道中も落石や道路の陥没等、爪痕が当時の悲惨な状況を物語っていた
長い長い下り坂を下り終え久しぶりの信号で停車。地図を確認。人吉市に到着した様だ
"エネキー"(ネイティブ風に)で無くなりかけの燃料を補充する。このエネキー(ネイティブ風に)は使える所とそうでない所とある。まったくもって大不便である
進む事数分、惨状が現れはじめた
道路は茶色く変色し土嚢が目立つ
このようにこの通りの多くの家屋の一階部分は壊滅的状況だ
そして
今回氾濫した球磨川に架かる鉄道橋の上には普段あるはずのないおびただしい数の流木が乗っかっている。この高さまで水が上がっていた証拠だ
その近くの橋に至っては崩落していた
さらに走る事20分。その光景に目を疑う事となる。人吉市隣の球磨村だ
言葉が出ない
電柱は傾きここでもあるはずのない高さに色々な漂流物が引っかかっていた
奥に見えるオレンジ色の建物が、多くの方が犠牲となった千寿園だ。車を停め無情にも先ほどの晴れ間が嘘のような雨の降りしきる中、手を合わせ黙祷させていただいた
苦しかったろう、怖かったろうと思うと辛く悲しい気持ちになった。しかし汗や夕立ちでずぶ濡れになりながらも懸命になり復旧作業をする住民やボランティアの方々を見るとそんな感情よりも逆に元気を頂いた。と同時に手を合わせる事しか出来ない自分が悔しく情けなかった
自然の前では人間なんて無力に過ぎない。いくら護岸工事をやってきたってたった1日でこの有様なんだ。住み馴れた街、先祖代々受け継いだ家屋やお墓あるだろう。しかしこうも毎年毎年大きな水害が起こると災害危険区域から離れる事も少しは視野に入れて行かなければならない所まで来ているのではないかとおもう。もちろん行政が先頭に立って。またすぐに来年はやって来る。とその前に台風の季節の到来だ
移住が難しい事は重々承知だ。でも死んだらおしまいなんだよ。すべてが
悲しむ人がいるんだよ
戻りの道中も土砂等で寸断され、許可証の無い者は通行禁止だ。元来た道を戻る気もしない
九州道に乗り北上し帰路へ
有事の際真っ先にすべき事、家族がいる人は集合場所、もちろん避難経路等頭の中に叩き込んでおいて欲しいと強く思う。被災者は先ずみんな口を揃えて言うんだ
まさか
そう、突然になんの前触れもなく天災は皆に平等にやって来る恐れがあり一瞬にして様々な物を奪い消し去って行くのだ
そうならないよう備えはどれほどやっおいても損はしない、と私は強く思う
かけがえのない家族、大事な人を失う前に、貴方は貴方の大切な方々へ強く勧めていって欲しいと思う
終
改めましてこの度の豪雨により被災された方々へ心よりお見舞い申し上げます
P.S:宿舎へと帰った後つけたテレビにはほぼ同時刻に立憲民主の枝野氏が千寿園へ弔問に訪れていたようだ。まあ見たくも無いがニアミスだ。いつも自民の揚げ足取りばかりせず建設的に議論を深めいい案を出せと大声で言ってやりたかったぜ