日本最高峰〜俺たちの山嶺〜①
凛とし、そこにあるのは風の音と自らの鼓動音
最早それ以外何も必要としなかった
10月上旬、ながいながーい平日が終わりをむかえた金曜日の夕方俺はその週の仕事を終えた
明日は富士登山だ
単身赴任中の俺は宿舎へ戻り、明日の支度を終え、AM02:00に目覚ましのアラームをセットし早々と床についた
草木も眠る丑三つ時、俺は目覚めリビングへ出ると
ざーす、と本日初登山の職場の戦友H君は既に起きていたのか、なにやらザックの中身をゴソゴソとしながら軽〜い挨拶をかましてくる
サッと支度を済まし車に乗り込む
登り下りと別々の登山口での山行予定の為2台で出発
登りは富士宮口、下りは御殿場口という算段だ
軽めの朝食と昼飯、行動食をコンビニで調達し、いつもドーーーンドーーーンと大砲が雄叫びをあげているCAMP FUJIと自衛隊の間の富士スカイラインを進んで行く
すると間も無く到着、御殿場口五合目だ
ここにH君の車を停めた
栄光の日本最高峰を制覇し半日後にはここへ下りてくる予定だ
登山初心者の彼を怪我なく、そして自分自身も怪我なく無事に下りてこれるのだろうか、と3000m級はおろか2000m級にも登頂経験の無い、似非ハイカーの俺が若干の不安戸惑いを感じていたということは言うまでもない
漆黒の空の下一台の車にまとまった俺たち山岳革命隊は御殿場口を背に行動開始地点富士宮口五合目へ向かう
道中現るたくさんの鹿達の目線を横にこれでもかというカーブの連続を経てAM03:30標高2.400mの富士宮口五合目登山口駐車場へ到着した
既に車は数台停まっている。が、コロナ禍でなければ満車であっただろう。ある意味人の少ないこの絶好のタイミング、日本最高峰行きの切符は神に授けられたようにさえ思えてくる
都合のいい脳をしているなと自らを鼓舞する
軽い朝食なのか夜食なのかよく分からない食事を済ませ、少し車内で仮眠しようかと試みるが興奮した俺たちが眠れる訳もない
外に出ると気温は3℃。満点の星空に。うわすげぇーとうっとりしている将棋界のプリンス藤井聡太似の若干21歳の本日のバディH君、彼も山岳界のプリンスへとなれるのだろうか。王手は目の前である
靴紐を閉めヘドランを装着ザックを背負い
AM04:00、俺たち令和型山岳革命隊は栄光の頂を目指し行動を開始した
ヘドランの明かりはどうやら必要として十分で、更に星灯りの下、順調に登っていく。オフシーズンの為完全自己責任の山行だ。山小屋は勿論開いていない。ストイックな旅が予想された
ハア、ハアと息を切らしながら独立峰富士を踏みしめる。遥か上には山小屋らしきものが見えるがそれが一体何合目のそれなのかは全く見当がつかない
山肌は火山であるが故に足場はあまり良くなくゴロゴロとした石や岩が敵となり注意を払いながら一歩一歩足を前に、その前方にトレッキングポールを突き刺しながら登って行くと
はい、六合目だ
10-6=4。まだまだ先は長い訳で、振り返ると
眼下に拡がる駿河湾近郊の街並みの灯りが俺たち令和型山岳革命隊を応援してくれているようだった
今回の単身赴任にて同室となったH君、寝食を共にするようになり、彼が山に興味を持ち始めたのは直ぐだった。道具を揃え始め間もなく、先輩山連れてって下さいよぉぉ、としつこく言うようになってきた
手始めにと、宿舎裏に拡がる箱根へと抜ける峠付近にある山はどうだろうかと計画していたが、ここは御殿場、日本最高峰、天下の富士山が目の前にそびえ立っているではないかと思い始めた俺は、初心者の彼を連れてこの日本最高峰富士山剣ヶ峰へ行く事を決意しはじめていた
そんな計画をたてはじめて間も無く週末が到来、天気は晴れのち曇り、昼頃に下山を済ませるならば絶好のタイミングだ。これを逃せばもう今シーズンの富士の頂きは白く色を染め出すだろう。ここ御殿場に何時までいるか分からないし、行くなら今週しかない
というわけで、我々令和型山岳革命隊の使命は日本最高峰の地をゲットせよに相成ったのである
つづく