日本最高峰〜俺たちの山嶺〜②
https://onematchfire.hatenablog.com/entry/2021/10/26/(日本最高峰〜俺たちの山嶺〜①)
6合目を過ぎた頃ザックに引っ掛けていて落ちたと思われる女性物の鮮やかなピンク色をしたソフトシェルが富士山の赤いゴツゴツとした斜面の上に落ちていた
風で飛ばないように、登山道の際のロープにそれを結びつけた
登山用品はどれも高価で衣類に至っては尚のことで、落としたハイカーが下山の際に気付くといいなと思いながら上へ上へと足を進める
右の方から少しずつ夜が明けてくる
まだまだ眠った街並は暗くそれと同じように登山道もまだまだ暗くヘッドランプも点灯している
7合目の山小屋前のベンチで水分補給と軽い行動食をかじる。H君はプカーとタバコをくゆらせている。興奮気味の彼は登り始めこそきっつーーを連呼していたものの流石20代前半、あっという間に私の前をスタスタと軽快に登ってゆく。20数年間不摂生を溜め込んだ中古車とは燃費も違けりゃ、性能も雲泥の差だ
つかの間の休憩を終え登り始めると、女性ハイカー通称山ガールと現行モデルH君が何やらトークをしている
さっきのジャンパーこの方のみたいっすよ。見つかってよかったッスね〜、僕の先輩が見つけたんですぅなんて藤井聡太似の屈託のない笑顔
ジャンパーって・・・
私はすかさず風で飛ばない様にロープに縛りつけてますからと紳士ぶる。山で合う人はみんな優しいぃぃと山ガール。かなりの別嬪さんだ
お礼に、この後、下山した後に、お茶でも、
なーんて展開には全くならず、別嬪山ガールの山で合う人はみんな優しいぃぃ、が頭の中を何度もコダマする。少しでも下心のあった自分自身がこの壮大な富士山との相乗効果も相まってものすごく情けなくちっぽけに感じてならなかったのは言うまでもない
そうして山ガールは道を譲ってくれた
出会いと別れは人を強くするんだと自分を鼓舞していると
空が真っ赤に染まりだし、ついに
キターー
御来光である。腕時計は05:45をさしている。先程までの下心をよそに家内安全、商売繁盛、健康第一と手を合わせる
ふと、反対を向くと
そこには朝日に照らされ赤見の増した壮大な富士殿に映し出された我ら令和型山岳革命隊の姿があった
それから間もなく体調が急変し始めた。頭痛、吐き気、そして目眩。そう高山病のお出ましである。1歩1歩が重く30センチ程しか進まない。無理して大きな一歩を踏み出すと
ゼェゼェハァハァと鼓動は速くなり、最早この世のパーティピーポーには決して踊ることの出来ない程のBPMにまで昇華
死にそうである
H君はというと、これまで特攻隊の如くスタスタと登っていたと思いきや、大人しく後ろにいるなぁと振り返ると
ユラユラと登りながらほぼ、寝ていた
僕の不調を察したのか、だぃじょうぶですかぁぁと蚊の鳴くような声を掛けてくれる
お前だよ
と突っ込む元気はまだあるようだ。思えば昨日夕方仕事を終え、早々と就寝したH君はなんと、日が変わるか変わらないかのうちに目覚め友人たちとネオン街に繰り出したみたいで要するに
スーパー寝不足だった
その若さゆえの行為はこの富士殿に失礼極まりなく戦国時代なら私は刀を抜きさり切りつけていただろう。とんだマザーファッカー野郎である。しかし世は令和、私にも家族がいる、そうはしていられないのである
高山病で死にそうになった俺を励ましてくれたのはマザーファッカー野郎ではなく
ガンバレー
と背中を押してくれる。いや待てよ私は都民ではない。都民ファーストを謳う彼女は私の事など応援してくれるはずがない。そうに違いない、とボヤボヤ呟いていると
私と同様先程まで死にかけていたゾンビ野郎が、先輩着いたっすよ〜と
9合目だ。10-9=1にさっきの10-6=4を足して引いて・・・・・・としっかり高山病は進行中であった
頂上を目の前とした私に待ち構えていたものとは
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